Yu-Run記

郵趣(切手・風景印など)とランニング・マラソンのブログです

【マラソン】後半タイムが前半より1分以上落ちれば戦えない

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2015年世界陸上北京大会のマラソン日本代表が決まり、女子では横浜で優勝した田中智美選手が代表入りを逃したことについて、メディアでいろいろと話題になっております。
ここではっきり言いたいことは、日本陸連の関係者の大半は、現在のマラソンにおけるレースプランのトレンドをほとんど理解していない状況だということです。
今回の女子の選考レース(北海道を除く)で、日本4選手、そして外国人選手のうち、前半と後半のタイムがほぼ同じである上位選手について、フィニッシュタイム、前半タイム、後半タイム、前半と後半との差について紹介いたします(敬称略)。

2014.11.16横浜
・1位 田中智美(第一生命)2:26:59(前半1:11:56,後半1:15:03,後半-前半の差3:07)
・6位 ティキ・ゲラナ(エチオピア)2:29:13(前半1:14:15,後半1:14:58,後半-前半の差0:43)
・7位 アリーナ・ブロコベワ(ロシア)2:29:18((前半1:14:14,後半1:15:04,後半-前半の差0:50)

2015.1.25大阪
・1位 タチアナ・ガメラ(ウクライナ)2:22:09(前半1:11:15,後半1:10:54,前半-後半の差0:21☆)
・2位 エレナ・プロコプツカ(ラトビア)2:24:07(前半1:12:22,後半1:11:45,前半-後半の差0:37☆)
・3位 重友梨佐(天満屋)2:26:39(前半1:11:15,後半1:15:24,後半-前半の差5:09)

2015.3.8名古屋
・1位 ユニスジェプキルイ・キルワ(バーレーン)2:22:08(前半1:11:07,後半1:11:01,前半-後半の差0:06☆)
・2位 マリア・コノワノワ(ロシア)2:22:27(前半1:11:07,後半1:11:20,後半-前半の差0:13)
・3位 前田彩里(ダイハツ)2:22:48(前半1:11:07,後半1:11:31,後半-前半の差0:24)
・4位 伊藤舞(大塚製薬)2:24:42(前半1:11:07,後半1:13:35,後半-前半の差2:28)
※ ☆印は前半より後半の方が速い(ネガティブ・スプリット)

レースプランのトレンドとしては、前半は余力を残して抑え目にいき、後半はそのペースを維持(イーブンペース)またはむしろペースアップすること。よって、重友選手のレース内容は、前半より後半のタイムが5分以上落ちており、私の個人的な意見として、自分の今の力以上のハイペースで走り、後半が前半より大幅に落ち込んでいる状況で、己の実力を鑑みない「無謀な走り」という評価。むしろ、田中選手の方が落ち込みを3分ちょっと(これでも落ちている部類ではありますが)でとどめているので、自分の力なりの走りをして、さらに終盤で競り合って優勝しているので、田中選手の方を選ぶべき、と思いました。
そして、ハイペースの先頭集団に積極的についていくことを評価している日本陸連は「大きな勘違い」であることをはっきりと指摘します。前半はしっかりと抑えて、後半でためた力を爆発させた方が、前半から突っ込んで、後半粘りこむよりタイム的に良くなることを日本陸連は未だに認識していないということですね。さらに、日本選手のほとんどが実業団選手中心ということで、テレビ中継のある大会では、どうしてもテレビ放映時間が長くなる序盤から中盤まで先頭集団についていく傾向にあることも、結果的に前半でオーバーペースとなり、後半失速する選手が大半という日本選手の状況になっています。
ここでもう一度、1964年東京五輪の男子マラソンで円谷選手が銅メダルを取ったレース内容を見直していただきたいです。そもそも金メダル獲得のアベベ選手は序盤、先頭集団(5km15:06で通過)にはついていかず(5km地点で先頭と11秒遅れ)、中盤で先頭にたつと、独走。円谷選手はアベベ選手(エチオピア)からさらに後方の位置取り。中盤から徐々に順位を上げていき、円谷選手は競技場に入った時点で2位まで順位を上げ、競技場内でレース前の時点の世界記録保持者、ヒートリー選手(イギリス)に抜かれたものの、3位でフィニッシュし、メダル獲得。タイムはアベベ選手(2時間12分11秒2…世界新記録)と4分11秒差の2時間16分22秒8。もし、序盤でアベベ選手についていったとしたら、このタイムで走れなかったでしょうし、もちろんメダル獲得はなかったでしょう。身の丈で走り、中盤から後半にかけてで落ちてきた選手をしっかりと抜いていく…これが一番いい結果になる可能性が高いと思います。前半から突っ込んで、後半粘り込む走りは、調子が良ければ爆発的な記録が出る可能性もありますが、その可能性はかなり低い。記録を狙う大会ならともかく、五輪、世界陸上の世界大会ではその走りだと上位に食い込む可能性はほとんどないでしょう。
そしてケニアやエチオピア(国籍変更の選手を含む)などの「マラソン先進国」の選手とは現時点で明らかに力の差があることをしっかり認識して、序盤からその選手とついていかず、中盤から走りを切り替えてペースを維持または少し上げ、あわよくば先頭集団が総崩れになったとき、一気にごぼう抜きする…くらいしか勝算はないでしょう。
今回の名古屋で前田彩里選手が後半もほとんど落ちず(40kmからのラスト2.195kmはむしろペースアップし、全選手の中で最速)にフィニッシュできたのは、本人にとって、序盤のキロ3分20秒ペースは別に問題のない速さだった、つまり余裕があったということ。それだけの余裕度を今までの練習で培ったというだけです。日本女子選手で2時間22分台が7年以上振りだったのですが、後半の1時間11分台は相当価値があると思います。もっとも海外の上位は後半の1時間11分台は「当たり前」。女子で世界と戦えるかどうかの目安は、後半で1時間12分を切って走れるかどうか、ですね。そこまでいってなければ、そこまで引き上げるためにどういうすればいいかをしっかり考えてほしいです。
男子も女子も、前半より後半のタイムが1分以上落ちる走りをしているようでは、世界の上位に食い込めない、と断言しておきます。
(写真は今年・2015年の大阪国際女子マラソンの幕)